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2005.08.26

NHK「アウシュビッツ」

 NHKというかBBCの「アウシュビッツ」は全話視聴。CGや再現ドラマの映像はよく出来ていたのだけど、だからこそ内容に眩暈がするというか吐き気がしそうというか……色々な意味で想像を越えていました。でも多分、自分の想像などでは全然届かないんだろうな。

 人はあそこまで狂ってしまえるのか、と自分では思うし、インタビュアーも良心を問うようなことを言うのだけれど、当時の状況を語る人は、インタビュアーの誘導になんて乗りはしない。あれは当然のことだったと。後悔はしていないと。アウシュビッツの責任者が戦後逮捕された際、彼が悔いたのは大量殺戮ではなく、家族のために時間を割けなかったこと。収容所に送られ、選別され引き裂かれ殺された家族に対する情などはそこにない。彼らは情を掛けるべき相手ではなかったから。そこまで思わせる時代の狂気が恐ろしい。

 収容所に送られたのは、ソ連軍捕虜、ポーランドの政治犯、ロマの人々、そしてユダヤ人。障害者の殺害に使われていた一酸化炭素による窒息死用のトラックを転用して、収容者の殺害が始まり、やがてチクロンBの青酸ガスが使われるようになる。アウシュビッツ=ビルケナウ収容所では、ピーク時には1日1万人が殺されたといい、収容所に送られた130万人のうち110万人が殺された。選別により働けないとされたユダヤ人の女性・子供・老人たちはガス室に送られて殺された後、死体は同じユダヤ人によって焼却炉で焼かれていった。アウシュビッツ以外にも各地に絶滅収容所が作られ、ホロコーストによるユダヤ人の犠牲者は約600万人にのぼるという。

 大量殺戮の対象の多くはユダヤ人であったけれど、彼らが何故迫害されるのかという事情は実にくだらない。連合国が収容所の解放に積極的でなかったのも、どこかに(自分達は手を汚そうとは思わないけれど)ユダヤ人に対する差別意識があったからだと思えるし。そして故郷に戻ってみると、自分の家には見知らぬ他人が住んでいて、財産も故郷も取り戻せない。そして今、彼らが約束の地として国家を建設したはずの土地で、再び住まいを追われた人がいる。ガザからのイスラエル軍撤退はそういう約束であったのだから、一方では当然のことではあるが、一方でどこかやりきれない気持ちもする。戦後60年は長いようでいて、実はまるで短いという感じがする。

■アウシュビッツ(BBC 2005)
1:大量虐殺への道
2:死の工場
3:収容所の番人たち
4:加速する殺戮/最終回:解放と復讐

【追記】

ホロコースト - Wikipedia
 ホロコーストに関する定説と否定論(修正主義)の両論併記。ただし「「ホロコースト」の疑問点」で最初に挙げられている「焼却処分したはずの数百万人分もの人間の灰が発見されていない」に関しては、その灰がポーランド政府の調査によりトレブリンカ絶滅収容所から出てきたという話もある。でもそれが殺人の証拠にはならない、というオチがついているのだけど、20フィート=6mもの灰の層というのはどう見ても異常。
 →Sasayama’s Weblog ≫ Blog Archive ≫ 「事実なのだろう。」発言と、「ホロコースト修正主義」

反ユダヤ主義 - Wikipedia
 実は今回のBBCの番組では、この「そもそも何故ユダヤ人が迫害されたのか」についての説明が抜け落ちている。尤も、それは欧米社会では説明の必要もないことなのかも。

壊れる前に…: アウシュビッツ
 こちらの記事では、BBCでは本来6回分のものだったことが紹介されています。日本語化してくれたのはありがたいけれど、なら完全版で流して欲しいですよNHK。でないと、製作者の伝えたいことが歪んでしまう可能性もあるのに。上記の迫害の事情とかも省略されていたのかも知れない。

JANJAN:文化・BBC放送を見て、NHK報道番組を考える
 食べ物を投げていたシーンはソ連軍捕虜相手だったような気がしますが。
 しかし冒頭にあるその映像、今何処に眠っているんだろう。

[教えて!goo] NHK「アウシュビッツ」で流れていたクラシック曲は?
 ヘンデルのサラバンド、だそうです。凄く耳に残る音楽だったので既存のクラシックだろうとは思いましたが。第5回のラスト付近ではモーツァルトのレクイエムというのがまんまな選曲でした。

BS世界のドキュメンタリー 「ドイツ・“アウシュビッツ裁判”」 ~自ら裁いた大量虐殺~
 BS-1で8/31(水)10:10~11:00に再放送。HR/ドイツ/2005年制作。NHKだと、過去のETV特集で「アウシュビッツ証言者はなぜ自殺したか」という番組があったらしく、こちらも見てみたくなりました。

 あとビルケナウといえばVガンを思い出すのがガンオタですが、ビルケナウ→アウシュビッツ→クラコフ(クラクフ)近郊ってことで、「THOUSAND NESTS」(交響組曲 機動戦士Vガンダム)ってクラコフ放送交響楽団による演奏だったんですよね。千住明もアウシュビッツに行ったとのコメントがライナーに掲載されていました。ポーランド録音ならワルシャワ交響楽団がメジャーなのに何でクラコフ? と思ったらそういう土地だったからなのか、と納得したものでした。前ローマ法王のヨハネ・パウロ2世の出身地でもあります。

 後はコメント欄にて。

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コメント

ホロコーストの真偽については根強い議論があります。(たとえば"逆転ニュルンベルグ裁判"をググってみる)。となればNHKは放送現倫理として「放送は、公平・公正を維持するため、視聴者にできるかぎり幅広い視点から情報を提供する。」といっているのだから、こういう外国の作品を垂れ流しをしてはいけないのではないかと思うようになりました。

投稿: tk | 2005.08.28 00:12

>tkさん

 ホロコーストを否定する動きがあることは知っていましたし、今回の番組でも紹介されていました。その上で、アウシュビッツに勤務していた親衛隊員がインタビューに応じたのは、自分の見た事実を話すことでホロコースト否定派に異を唱えるためだというコメントがあります。今回記事に追記したリンクの中でも、彼について触れている記事が複数ありますし、自分でも最初から触れておけば良かったと思い、こうして追記しています。

 彼はアウシュビッツに勤務して、ユダヤ人から回収した手荷物から金品を整理して国庫に収める仕事をしていた親衛隊員でした。特殊な環境下での仕事ということもあり、親衛隊員たちは仲がよく、当時を「楽しかった」とさえ振り返っていました。彼は戦後起訴されるものの罪に問われることはなく、彼自身犯罪に加担したとは思わないようなことを述べています(再現ドラマが正しければ公金横領はあったと思うのですが)。彼だけでなく、ユダヤ人を「処理」することに疑問を感じなかったという証言はあったとしても、ドイツの敗色が濃くなると、大量虐殺の証拠隠滅を図るのだから、外から見れば非難されて当然の行為だという自覚はあったはず。インタビュアーが良心を問い続けても、それでもまだこんなことを言えるのかと、第三者としても疑問を感じながら見ていました。

 同じようにインタビューに応じている収容所からの生還者は、尚のこと彼の発言を穏やかには聞けないだろう、と回を重ねるごとに思っていました。戦後、アウシュビッツに居たことを非難するような家族に対し「二度と口にするな」と言った彼は、世間に対する後ろめたさを感じていたはずです。そして、最後に上記の発言があり、それならば彼の言葉は傾聴するに値すると思えました。加害者側である元親衛隊員、被害者である収容所からの生還者だけでなく、その他の様々な立場の人々の証言は、記録は消せても記憶は消せないのだと訴えているようです。

 ただ番組の終わり方を見て、この問題の根の深さは、戦争が終わって収容所から解放された、では解決せず、その後もずっと引きずっているということに示されているように思い、その分に字数を割いたら、自身の過去に向き合って証言をした元親衛隊員についての記載が漏れてしまいました。確かに彼の存在が、ある意味ではこの番組の肝であったと思います。

 良心を問われても、当時はそれで当然だと語ったのはこの元親衛隊員だけではありません。収容所を出たユダヤ人が、ドイツ人の元囚人を殺してしまった話でも、彼はそれを悔いる言葉を述べませんでした。何人死んだのか、どんな風に殺されたのかということもさることながら、人を殺して当然だという戦争の時代。そんな時代の狂気が、とにかく恐ろしかったのです。しかもそれは過去のものではなく、今にも繋がっているものなのです。

 今年は終戦60年企画ということでNHK制作の番組も見応えがありました。であれば、NHK以外の制作による番組も視点の多角化には必要でしょう。8/31のBS-1のドイツ・HR制作の番組が見られれば更に良いかと思うので、地上波でも是非放送して欲しいものです。

投稿: しののめ | 2005.08.28 13:16

追記読ませていただきました。
そのころの人種観からして、互いに”同じ人ではない”という感覚だっただろうとも思えます。逆に”同じでない人”を殺すのが、当然でなくなったのは最近のことではないでしょか。いや、ひょっとすると”同じ人”というのはほんの一握りの国の幻想かもしれません。
でなければ”同じ人”を殺せるようになったのが今という時代なのでしょうか?日本人はすでに一度その時代を過ぎて数世紀たっているので理解できていないのかもしれません。

 ホロコーストの反証については、ドイツ軍には将官になっているユダヤ人もいたこと(アーリア人の理想の外見特徴を持つユダヤ人がいたこと)、灰の件では元の論文には20フィートの深さの灰があったとは書かれていないこと、戦後明らかな偽証をするSS隊員がいたこと、逆にホロコーストを否定する被収容者がいたこと、収容所内では食料状況はよかったこと、など、WEBを眺めると数多く出ていることを知り、信じてきたことのあてにならなさをあらためて知ったわけで。
ドイツにはホロコーストに関する言論の自由がないので、「本当に良心に恥じることはしていない(ホロコーストはなかった)」と証言できる人はいないのです。だからこそヨーロッパの発信するものを垂れ流すべきではないと思ったのでした。
 今年の夏は戦争のことを考えさせられる季節でした。本記事は興味深く拝見しました。荒らしのつもりも自分の意見を押し付ける気もないのでこれで一区切りとさせていただきます。 ありがとうございました。

投稿: tk | 2005.08.28 20:18

 「アウシュビッツ」はとりあえず全話録画しましたがまだ見ていません。ただこの手の話は“地域格差”がかなりあることは留意する必要があると思います。そもそも「収容所」にしても「強制収容所」(ユダヤ人を隔離するのが目的だが殺すことまでは考えていない)と「絶滅収容所」(最初から殺す為に収容する)があるようですし、「所長の一存」でもかなり変わると思いますから。
* アウシュビッツは「絶滅収容所」ですね。

 また「アンネの日記」で有名なアンネ・フランクですが彼女の一家をかくまったのはポーランド人ですが一家を密告したのもポーランド人です。と言うようにヨーロッパ全域で「ユダヤ人」が嫌われていた、と言うのは良く聞く話です。

投稿: Y/N | 2005.12.21 00:51

 うろ覚えではいけませんね。アンネ・フランクはオランダにいたのでした。従って彼女をかくまった人、密告した人はオランダ人ですね。

投稿: Y/N | 2005.12.21 01:05

>Y/Nさん

 まずは録画をご覧になることをお勧めします。かなり色々なことが出てきますので。加害者側と被害者側の双方の言い分はフォローされていたと思います。ただ確かにこれはBBCの目線でしかないという、先のtkさんの指摘もあります。追記のリンク集などもご参考までにどうぞ。
 歴史というのはその時点での為政者の都合の良いように書かれるものなので、「あった」方が都合が良い人と「なかった」方が都合が良い人がいるというのは、何もこの問題に限りません。でも、火のない所に煙は立たないものなので、真に問題とすべきは、今に至るに各地で虐殺を繰り返す人間とは何かということなのかとも。

投稿: しののめ | 2005.12.23 12:21

 とりあえず1、2話を見ました。なるほど、私が知っているアウシュビッツとはかなり違いました。ただとりあえず話のつじつまはあっていますね。ある意味「南京大虐殺」と似ているな、とは思いました。第2次世界大戦下のドイツ占領地域でユダヤ人の虐殺が行われたこと自体を否定する人はそういないでしょう(恐らく“いる”とは思いますが)。政治的、法的な処理を行う為には「正確な人数」を確定する必要があるのでしょうが、倫理的にはそうした枠を超えていると思います。

> 真に問題とすべきは、今に至るに各地で虐殺を繰り返す人間とは何かということなのかとも。

 これは正にその通りですね。かつてチャップリンが「独裁者」の中で名台詞を吐いていました。「「一人殺せば殺人で、百万殺せば英雄か!」 。

投稿: Y/N | 2005.12.24 00:12

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