ゼーガペイン#26 減速と再生と
ゼーガペイン#26「森羅万象(ありとあらゆるもの)」、最終回の問題のエピローグについてまだつづき。
……大事なことを忘れていた。いや、眩しい光に目を逸らされてしまっていたのだ。光あるところには影がある。「ミテイルセカイヲ シンジルナ」とはよく言ったものだ。
「安全第一」「めざせ早期完成」そして「消されるなこの想い 忘れるな我が痛み」
千葉県立舞浜南高校水泳部分室に掲げられたこれらの言葉。その書きなぐりっぷりがキョウちゃんらしいねぇと思うと微笑ましくもあるのだが、そればかりではない。
「どんな気持ちで書いたのかと思うと、切ないんですよね」
そう呟いた人の言葉を聞いて、胸に痛みを覚えずにはいられなかった。
光溢れる浜辺にも、いつか凍える夜が来る。
彼が立ち向かっているものは、彼自身が選択した、過酷なまでの孤独なのだ。
初見の時から謎だったのが、舞浜サーバーの減速はどこ行ったんだよと。
どこにも行っている訳がない。舞浜の減速は続いているのだ。
#減速について補足→ #26 新舞浜サーバー
必要な情報は全て映像の中にあるとして、登場する「時間」を整理してみる。
●舞浜サーバー
クラゲが「夏休みも終わっていよいよ2学期ですねぇ」「新鮮な響き」と言っているからには、これは舞浜サーバーに初めてやってきた9月1日の光景なのだろう。
舞浜の減速がいつから始まったのかといえば、最終作戦プロジェクト・リザレクションのフェイズ3の時点から。これが舞浜時間で何時の話かといえば……シマの言葉通りならリセット(8/31→4/4)から3ヶ月以内に決行されたもの。つまり大体6月末までということになる。
リセット後のイベントの日付が全く出ないので、同じ日付に同じイベントが起きているのか、期限を睨んで前倒しになっているのか判然としなかったが、#20「イェル、シズノ」の水族館デートはリセット前は6月下旬から7/5以前に起きているものなので、おそらく全く同じ日付に起きているのだろう。その方がやはり無理がない。そして#20~#22は畳み掛けるように進み、#22~#26の最終作戦の所要時間は計画では約15時間。作戦は当初のシマの予定通りに行われたと見ていいだろう。となると減速開始が6/30頃ということで問題はないものと思われる。
とすると、舞浜サーバー内での経過時間は6/30→9/1ということで2ヶ月となる。
●現実世界
時間経過の判断材料は、キョウの髪の長さと、一見町工場風の建物内で組み上げられている途中のリザレクションシステム……とはいえ、これを見ただけでは判然としない。「髪の伸びる速さは平均して、月に1cm、年に12cm程度」という医師・美容関係者の意見もあるそうだが、新陳代謝が激しい成長期は髪が伸びるのも早いし、個人差も大きいからだ。(参考:アンケート:髪が伸びる速さ)。高校生なら年に20cmくらいという結果も出ているから、少なくとも1年は経過していると見ていいだろう。
リザレクションシステムの方は、ドヴァールカーのサポートもあるだろうし、それなりに時間経過があるという以上には全く判断材料にならない。
となると、時間に関するキョウの台詞「あと2年、待ってくれ。卒業式には必ず出るぜ」が唯一の判断材料となる。「あと2年」という言い方には、「既に2年経った」ことが裏にあるようにも見えるからだ。そして高1だったキョウにとって卒業式は2年後の話。本来なら今は卒業年次だということも含められているように見える。
ということで、とりあえず現実世界での経過時間を2年とする。
にしてもガルズオルムの残存部隊の掃討にどれだけ時間が掛かるものやら。早くあの静かな浜辺を安心させてくれ。浜辺のアルティールは単にキョウの足代わりとかリョーコの転送ゲートとして使われているだけではなくて、文字通り舞浜サーバーもとい人類の最後の防衛線なのだ。でも使ってない時には光装甲切っとけよ。#20でも思ったけど。QL切れたらどうするよ。積層化が標準になっているんだろうけれど。でも鳥が集まってるのが微笑ましくて、やはりあの光装甲が綺麗だから少しくらいはいいか。
●減速と加速
舞浜サーバーの2ヶ月が現実世界での2年だとすると、舞浜の減速は12分の1となる。
舞浜サーバーは1年でリセットされるというリョーコの台詞があるので、「あと2年、待ってくれ」の2年が、舞浜サーバー内での主観時間をも指すものだとすると、舞浜で2年(2ループ)が経過すると、現実世界では24年が経過することになる。
つまり「2年後」にキョウは16+2+24=42歳になっているということだ。
16歳のままのリョーコが外に出てきたら26歳の年の差になる。
30年近くも経っていれば、まぁあの浜辺と灯台の時間経過の説明も付くのかなと。
……見た感じは経年劣化に見えないんだが、だからといって時間経過が長くないという証明にはならない。
あくまでも個人的な推論にすぎませんが。
●問題のCパート
「イェルの創った世界」に最初に生まれるものがイェルだ、という話。
やはり自分の場合、萩尾望都「スター・レッド」を経由した方が分かりやすいのでそちらへ走るが、「スター・レッド」では、ヨダカは星(セイ)の意識と力とを自分の体に取り込み、体は後で生まれてくればいいと言って、自分の体を作り変えて代理母となった。
イェルが同じように「小さくおなり」として小さくならなければならなかったのだとしたら、ルーシェンが言ったように「無から有を生み出す」ための措置としては理解できる。本来意識しか持ち得ない17歳の少女の「体」を実体化できるためのデータを作り出すのではなく、現実世界に出るための体を最初から作らなければならないということだからだ。これは星の場合と通じると思える。
ではイェルの代理母は誰がといえば、リョーコが志願するのも分からないでもない。
ただ一人の実体化に迷うことはなかったであろうキョウをリョーコは知っている。
尤も彼とは違って、逡巡も葛藤もしただろう。だがリョーコが「私、決めたの」とでも言ってしまえば、キョウはおそらく何の相談もなくそう告げられても彼女に任せるしかない。キョウもリョーコも、イェル=シズノに二度目の命を与えられている者であり、おそらく誰よりも彼女に現実世界での生を体験させてやりたいと思っている者だろうからだ。
だったらやはり、彼女の再生を最優先にして、待つべきではないか。自分達の幸せは、その後でも遅くはない。メドレーチームを組めるくらいの子供をその後で産めばいい。ロジカル・リョーコの片鱗はそういうことを論理で考えてしまいそうな気がする。
というようなことを書いてしまうのには、グレッグ・イーガン「適切な愛」(『しあわせの理由』所収)も頭にあるからなのだろうか。これはイーガンが男性だからこういう話を書けるのだろうな、女性が同じ設定で書いたら、やはり適切な愛で自分の心を上書きしてしまうような気がする。女というのは、異なる物が自分の体内に侵入したら、自分の体を作り変えることが出来る生き物だからだ。 →グレッグ・イーガン3本勝負
……と考えて初めて、#17「復元されし者」でシンがリョーコに与えたものの正体がようやく分かったような気がする。だからイェルのために体を作り変えることが出来たんだね、と。
とりあえずキョウちゃんが立派なまぐろを釣って帰って来るのを千葉県で待ってるよ。敦盛を舞うにはまだ早いぜ。
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