是我痛:最適化された女
女性から見ると、カミナギ・リョーコは印象の良くないキャラクターらしい。男性に最適化された行動をとっているとのこと。ストーリーに対するソゴル・キョウの行動―そして同じ視点を想定される視聴者―を誘導するために、主人公側から要求され易いシンボリックで“優等生”的なあり方を設定されてしまっているのだろうと思う。この辺り、ライターが男性だと安易に割り切ってしまう都合の良さが、女性の生身の感覚からは鼻に付くのだろう。確かに、必要以上にべったりしている気はする。リョーコはキョウが置かれる状況を作り出し、動機を喚起するキーだからこそ、塩梅が難しいのか。
最適化という言葉の捉え方がひょっとしたら違っているかも知れませんが、「●●に最適化された」→「●●にとって都合が良い」と解釈しました。丁度シズノとリョーコについてまとめたかったのでお題に拝借。ってもう随分寝かせてたもので今更すみません。
キョウを振り回す役所のリョーコは、物語に対して最適化されているキャラだと自分では見てました。物語における「幼なじみ」という役柄のお約束というのも織り込み済みなので、必要以上にべったりという感じもしませんでしたし。ただ「幼なじみ」という記号をリョーコが最大限に利用していたとすればそれはリョーコが女だからだろうと。
#21「戦士たち…」での身の引き方が、リョーコならではの個性だろうとも思うのです。「オレ、一緒に考えちゃ駄目かな。お前と一緒に」というキョウの言葉はこれ以上はなさそうな模範解答であって、リョーコがキョウに対して最適化されているのならここでキョウの言葉を受け入れたんじゃないかと。でもリョーコはそれを一蹴した訳で。この場面は、#07「迷える魂」でキョウの嘘を看破して去るとか、#12「目覚める者たち」でキョウの思惑に反して覚醒するといった場面と並んで、リョーコは決してキョウに対して都合の良い存在ではないのだということを象徴する場面の一つでした。
寧ろキョウに対して最適化されているというか都合の良い女はシズノ先輩の方に見えるんです。特に前半でのシズノがキョウを愛してると言いながらも異様に身を引いているのに自分が苛々してたのは、シズノがそんなにも自分を抑えてまで、リョーコにばかり目を向けているキョウに対して都合が良い女をやっているのが気に食わなかったんだろうなと思うのです。でもま、それも理由があってのことと分かるから、先輩の想いをスルーするなんて酷いよキョウちゃん。などと矛先がそちらを向いていたのですが。でもそのキョウちゃんのシズノスルーにも理由があって、それが「ミサキシズノに関わるな」という警句に込められていたというのがまた切なくて。
ただこのシズノの健気さというかいじらしさというか薄幸っぷりの故に、自分の周囲でゼーガを見てた女性はシズノ贔屓な人が多いかなぁというのも分からないでもない話。
ここでリョーコに話を戻すと、#20「イェル、シズノ」で「戦う意味が良く分かってないのかも知れない」とリョーコが口にするのは、#17「復元されし者」でシンに語った「守りたいから、かけがえのないものを」という自分の言葉は理想論でしかなくて、#19「ラストサパー」で舞浜サーバーを最後まで守ろうとするキョウに対して、リョーコの行動は彼と一緒に居たいということだったということを振り返ってのもの。
だからこそ#20でリョーコはシズノに、キョウと付き合っていたのかと訊いた訳です。シズノが今でもキョウのことを好きだと言うのは、それだけ二人が深い関係であったということ。そして以前のキョウは一人で何もかも抱えて自滅したとシズノは告げる。シズノは今のキョウとは別人だと言うけれど、#02「セレブラム」でも触れられているように、リョーコの知っているキョウも同じ気質を持っている同一人物に他ならない。
#21で、シズノを信じられると言うキョウに対して、クロシオが「愛の力か」と二人の過去について触れるのを聞くリョーコ。自分だけが二人の過去を知らずに、キョウに甘えていた。そのキョウの優しさも、クロシオが指摘するように、リョーコが特別な存在だからだとリョーコには思える。リョーコの存在が重荷になって、今のキョウをも潰してしまう訳にはいかない。キョウのことを思えば、リョーコは身を引くしかない。それが自分の本心なのだと。
それでもリョーコは、最終決戦にはキョウと二人で赴かざるを得ない。#22「ジフェイタス」では戦闘時以外にはキョウとリョーコの会話は存在せず距離を置いているようなのだけれど、#23「沈まない月」で、つい彼の肩に触れてしまったその手を受け止めてくれたキョウに対して素直になってしまって、#24「光の一滴」ではマインディエのホロニックスピアが迫り来る中、#19同様にキョウにしがみついてしまってる。あーもーそれが本心なんだからしょーがないよ、というのはリョーコ自身も分かっているはず。やはりリョーコは本心を変えられなかった。たとえ過去にシズノと何があろうとも、今キョウが見てくれているのは自分だから。それが分かったから、#24でシマのオリジナルのラボからアルティールへ戻るのに、どちらからともなく二人は手を取り合っている訳で。
地上波とAT-Xでの本放送では#25「舞浜の空は青いか」でのキスしてグッバイの流れがあまりにも切なくて、ついキョウちゃんばかり追いかけてしまったのだけれど、DVDで見直してようやく気付いたことが一つ。
キョウの決断が描かれていないのは、描かなくても分かることだし、描かなかったからこそ美しいのだと思っていました。でもここではもう一つ大事なことが描かれていない。フェイズ4での実体化したキョウのリアシートにリョーコとシズノのどちらが座るのか、その選択が省略されていたのだと。最後にシズノという流れがあまりに美しくて気付かなかったんです。
【1】実体化前のキョウがここでシズノを選んだ、というのは選ぶ理由が思い当たらない。元々#13「新たなるウィザード」でリョーコとパートナーを組むことを選んだのはキョウだったのだし、リョーコと別れることになる方がキョウには辛かったのではないのか。
【2】シズノが自分に行かせてと言うのは、シマが最終作戦の鍵はキョウとシズノだと言っていたことからすればアリなのだけれど、先輩はこの場面でも身を引きそうだからこれもなさそうだ。キョウがリョーコと行くのなら、メイイェンを舞浜に戻してクリスのリアシートで同じ戦場へという選択肢もまだあるのだし。
【3】リョーコは舞浜サーバーに居る限り感情はないから、キョウちゃんと別れても平気。だから先輩、キョウちゃんをよろしくお願いします。とリョーコが今度こそ身を引くのはありそうだ。
多分この【3】で、キョウの決断を受けてリョーコが即断してるって線なんだろうなぁ。で、キョウがそのリョーコの決断を受け入れたと。先輩はここでも一歩引いて、二人を見守ったんだろうなぁ。
結果的にシズノがキョウのリアシートにという選択で物語としては正解。やはりリョーコは物語に対して最適化されていると見えるのだけれど、そもそもゼーガというのは徹頭徹尾ソゴル・キョウの物語なので、結果的にはキョウに対して最適化されているとも言えるのか。
……ていうか「リョーコがキョウのために身を引こうとする」というのがそもそも「キョウに対して最適化された行動を取る」ということか。何か難しく考えすぎてましたね。
でも最後の最後にリョーコが身を引けたのは、キョウの心はちゃんと掴んでるって確信もあったからなんだよな。リョーコは女としてしたたかですよ。ビジュアルファンブックの浅沼晋太郎さんと花澤香菜さんとの対談で
純粋だけど押さえてるとこは押さえてるって感じで。友達としてはアリなんですけど。恋のライバルにはしたくないですよね。
という花澤さんのコメントもあったことだし。あーでもこういうあたりが、同性には何か可愛くないと映るのかな。女って女が嫌いなとこあるし。うーん自分にはリョーコは女だからこそ可愛い子なんだけれど。まぁこういう感性も人それぞれってことで。
ただシズノだって女なので、最後の最後にキョウが全部思い出してくれればそれでいいって思えて、つい「さよなら」なんて言えちゃったんだよなぁ。あの別れの一時が、シズノにとって一番幸せな瞬間だったんじゃないかとさえ思えてしまいますよ。あの時キョウの心を満たしていたのは間違いなくシズノのことなんだから。それさえあればもう何もいらないんだって。……やっぱ最適化されてるの先輩じゃないのか?
ただ、シズノとリョーコが愛したキョウというのはこういうことを言う男なんですよ。
それが気に入らねぇんだ! オレが抱えた痛みも、想いも、全てが戦うために用意された単なる障害! 予定調和ってことなんだろうっ!? (#14「滅びの記憶」)
この予定調和を上腕二頭筋で粉砕するソゴル・キョウの前では、リョーコやシズノの思惑など、その斜め上を行く展開になってしまうのです。えーいこの色男!
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コメント
最適化というのは実は難しい概念です。というのも、人物 p に最適化というのは字面の上では、人物 p にとって都合がいいと読めますが。人物 p の都合というのも時間によって変化しますからややこしくなります。そのため、工学的なフィールドではローカルミニマムに落ち込むとか、そういった概念が出てくるわけです。シズノがキョウに最適化されているというのはそういう意味ではローカルミニマムじゃないかと思っています。つまり、その時の時間に限っては恐らく、最適な解を出している。従って、そのシーンに関する限り最適化しているように見える。リョーコの場合、その時間ではなくもっと先の時間で適切な答えを出しているように見えます。従って、別な観点ではきわめてあざとく見えるかもしれません。
シズノの場合その時々のキョウに対して、その時その時最適と思われる行動をとっていますから。見方を変えればかいがいしく見えるかもしれません。ただ、キョウがシズノやリョーコの思惑を吹っ飛ばすようなキャラクターであるのは事実でしょう。そういう意味では強力なイレギュラー、らしい単語を当てはめれば特異点なんでしょう。
投稿: G.O.R.N | 2007.07.26 12:51
>G.O.R.Nさん どもお久しぶりです。
理系の方に適切なコメントを戴けて良かったです。引用元記事での「最適化」の意味をつかみかねまして、色々自分でも定義を調べてはみたのですけれども、こうして解説していただけると、何だこんな行数で済んでしまう話だったのかと(^^;
その時点での最適解を出すシズノに対して、リョーコが先を見ての最適解を出しているのは、「今とここしかない世界」へ適応することを求められたシズノと、「未来のある世界」というものをその本能で知っているリョーコという差なのかも知れません。人工幻体には、人間との間にまだまだ埋めるべき差分があるのかも。勿論単なる個性の範囲とも見ることは出来ますし、それぞれに良さがあるよなとは思います。
キョウちゃんが特異点だというのも正に言葉通りですよね。このコメントを戴けたのなら、あれだけうにゃうにゃ連ねた甲斐もあったのかと。ほんとありがとうございました(^^)
投稿: しののめ | 2007.08.04 00:29