是我痛:ありえないありえなさ
8/31なのでサルベージネタ。もう随分前の話になってしまって恐縮ですが、囚人022の避難所さんとこで、ゼーガペインの#01を見ていただいた折のご感想がこんな文面で。
やっぱり今ドキ、メカ戦はCGなんですねーっと老体のアニメファンらしい感懐を洩らしてみたり。(なんつーったって、“いわゆる板野サーカス”みたいなのを見て育ってきた世代なんで、ねぇ。なんつぅか、絵的にリアルであることなんて、つまらんと思えてしまうのですよ。むしろ「あり得ねぇ!!」と叫びたくなるような、映像的快楽と言うヤツ。ただ、『ゼーガペイン』のほうは、その軽々しさを逆手にとって見せているので、そこは「やるな、ブライト!」ってところでしょうか。w)
この#01以降は御覧いただけていないあたり、残念ながらお口に合わなかったのかなとも思えたのもあって、反応控えてしまったのですが。
ただ、同じく囚人さんの「ロボットアニメ雑感(“あり得なさ”と“本物っぽさ”)」だとか、この文面を拝見してて思ったのですよ。
ありえないありえなさが、ゼーガの映像表現の肝なのではないのかと。
物語自体がありえないありえなさを描いているものなのだから当然なのですが。
どうしようかなと思いつつ延々寝かせてしまってたんですが、やはり書いておきたくて。
以下本編ネタバレしまくりです。
◆
ゼーガで描かれる世界は、人類が滅亡した廃墟の戦場という現実と、量子データ化された人類である幻体が保存されている仮想空間での日常という虚構との二重構造となっている。物語の端緒では、そうした世界に関する記憶を失ったキョウは、日常が現実であり戦場はゲームと思うよう誘導される。初期の戦闘シーンでのゼーガペインの動きの軽さも、このゲーム的な感覚を与えるのに一役買っている。だがキョウの認識は覆され、彼の感じる現実の重みがシンクロするかのように、ゼーガペインの動きの重みが変わっていく。これはCG班の練度が上がったから、というのも勿論あるのだろうけれど、この変化はそれだけが理由ではないと思える。
ゼーガペインでの戦闘は現実世界で行われるものであり、幻体であるキョウ達とは違い、ゼーガペインは物理的に実体として存在する。その動きには勿論慣性の法則も働いてはいるのだが、時にそれが無視されるような軽い動きや急制動が目に付く。アニメ的な動きのディフォルメとも言えるが、ゼーガペインがどうして空を飛べるのかを考えると、重力制御で飛んでいるとみなすのが一番早い。セレブラムが重力制御技術を持っているのは作中から判断できるし、通常の物理法則が通用しない空間であるデフテラ領域内でゼーガペインが活動できるのはそのためだと考えると分かりやすい。本編ではデフテラ領域内に入れるのは光装甲を持つものだけという説明もあったが、それは領域内の大気組成が従来の人類には適合しないといった説明と合わせて、何らかの防御手段が必要だと見るべきだろうか。光を失った幻体が得たものは光の鎧。その光が失われれば幻体は生きてはいけない。そうしたことを視覚的に見せているのも、ゼーガのCGの面白さでもある。
あとゼーガのCGについての意見で散見するのが、質感に対する不満。自分の場合は寧ろ画面にここまで馴染む3DCGで良かったと思ったのだけれど。CGにありがちな浮いた感じがしなかったし。ガルズオルム側は無機質な不気味さが出てたと思うし、ゼーガペインの光装甲はCGでしか表現できない透明感だから、よくぞやってくれましたというもの。何せ相手は光なのだから、光装甲に質感なんてものがある方がおかしい訳で。何が不満なんだろうと首を捻っていたりする。ビジュアルファンブックで線画設定を見ると、こんなに線の多いメカはCGでないと動かせないとも思うものだし。
余談ながら、「超光戦士シャンゼリオン」の透明装甲は「クリスタル」という方向付けなのであれでいい。だがOPで最初に出てくるシャンゼリオンや必殺技のシャイニングアタックだとか、これもCGが多用されている作品。やはり「光」を描くというのは一筋縄ではいかないのだ。余談だがトイの「デカシャン」ことDXシャンゼリオンの出来は素晴らしかった。ゼーガのビジュアルファンブックでも「透明装甲→変身サイボーグ」という指摘はあったけれど、デカシャンは完全に変身サイボーグのノリ。 →CHANGERION UNPLUGGED
こういうことを書いていてふと思い出した。プラモのアルティールは素組みでも充分OKという完成度を誇っているのだけれど、実はあのキットは単に組んで透明パーツを眺めているだけでは未完成なのだ。ブラックライトを当てて、アルティールに光を纏わせて初めて完成したと言えるのだと思う。勿論本物の光装甲など誰も見たことはない。けれど光を纏わせることで、ありえないありえなさを実体化させてしまったというのは凄い。そこまでのものを作り上げているのだから、再々販もするよなぁ、と改めて感服したりする。
ただ、550 miles to the Future: ■えっ、メカの装甲が半透明?■ では (こちらも時間が経過した記事にて失礼)
メカの装甲が半透明ってだけでNGですか。80年代を体験した世代は、つまるところ「形」や「肌合い」しか覚えてないんじゃないか?
などと書かれていて、自分は80年代直撃の世代だけれど周囲にもこうした意見は聞かなくて、釈然としないでいる。
◆
ゼーガのありえないありえなさは、その世界観を描く背景美術でも徹底されている。
#12「目覚める者たち」でのリョーコとキョウの会話での、
リョーコ「リアルなオレンジだね」
キョウ「あったかいしな」
という、舞浜サーバーで投影される夕焼けに対する二人の評。視聴者が目にする映像の中の夕焼けは、確かに暖かな色で描かれた美しい背景美術だ。映像の中の二人も、それはただの仮想現実でしかないと知っているからこんなことが言える。虚構を虚構として見るリョーコに対して、それをもう一つの現実だと思おうとしているキョウという差異はあるにせよ、二人が目にしているものはリアルな幻でしかない。舞浜サーバー内の風景は、この夕焼けに限らず、どこか空虚な美しさで描かれた幻の街だ。
その一方で、#18「偽りの傷、痛みは枯れて」での百合の花畑は写真と見紛う美しさだし、#22「ジフェイタス」での重厚な雲の質感も素晴らしい。幻を描き続けたゼーガにあって、質感に一番力が入れられているように思えたのが現実世界の背景美術だというのは、ある意味正しいのだろうとも思う。現実の世界とはかくも美しいものなのだと。
ただここで面白いのが、ゼーガの劇中の風景を探して回ったロケ地ツアーでの印象。千葉市では人影がないと喜んでみたりもしたのだけれど、浦安市では人影があるにも関わらず、不思議な空虚さを感じたものだった。と書くと浦安市民の方には聊か失礼なのだが。
旧市街の境川あたりはどこか懐かしい風景に生活の匂いを感じたものの、新浦安から先の整然とした街並みのあのリアリティのなさは何だったのだろうと。そこは確かに現実の風景だし、車も走ってるし人も歩いてる。昼間人口が多い街だと数字が示している通りなのに、公園で遊ぶ家族連れも居るのに、そこは何だかありえない風景。
浦安南高校の端の海岸まで出て眺める東京湾。普段海を見ない自分には非日常的な風景なのだけれど、それよりも、海の反対側の埋立地の、だだっ広い空き地の方々に並ぶ、建設途中のマンション群の光景の方が何だか不思議だった。訳の分からない感覚に圧倒されて、「凄いところだなぁ」としか言えなかった。
ここはしばらく前まで海だったのに、何時の間にか陸地になって、人が住んでいる。お台場あたりも似たようなものだけれど、空を目指して伸びていく高層ビル群は無機質の林だ。どういう訳か、遊佐未森「東京の空の下」の 「人の欲望(ゆめ)は高く高く 空を突き上げる」 という一節が耳元に甦る。ここは人の夢が生み出した街だ。ある意味、幻が具現化された風景なのだ。アニメという絵空事の中に描かれた幻の風景と、それはまるで紙一重。
実際の地名の「舞浜」が位置するJR京葉線の舞浜駅前もやはり埋立地であり、しかもそこは、娯楽施設を誘致することを目的として、かつて生きる糧を得ていた漁場を埋め立てたという経緯を持つ土地だ。現在そこには、足を踏み入れるのに「パスポート」が必要な「夢と魔法の王国」が存在する。ゼーガでの劇中の風景を見れば分かることだが、舞浜市でキョウとリョーコが住んでいるマンションが建っているのは、実際に地名の「舞浜」に相当する位置だ。ビジュアルファンブックに掲載されている舞浜市の地図も、その地形は現実の「舞浜」の区域に相当する。劇中で描かれているのはあくまでも、現実にはありえない舞浜市の風景。しかもそこは、現実にあっては夢の国なのだ。
ありえないありえなさを描くゼーガの舞台のモデルとして、この地を選んだスタッフの慧眼には敬意を払わざるを得ない。そう思えてならなかった。
→是我痛:ありえないありえなさ2 メカのCGに関してつづき
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コメント
トラバをいただきまして、ありがとうございます。『ゼーガペイン』の続きを観ていないのは、ただ私がなまくらなだけなのですが。(苦笑)
『FLAG』に感じたアレと似て、違和感を感じた部分で“逆手を取られる”と、むしろそこがしびれるポイントに変わるってのはあるかもしれません。おかげさまですっかり観てみたくなってきました。レンタルでは『ゼーガ』はまだ新作コーナーかなぁ。いちおうときどきチェックはしているのですよ。(貧乏臭い話でスミマセン! 笑)
投稿: 囚人022 | 2007.08.31 21:31
>囚人022さん
コメントどうもありがとうございました。そういうことでしたかと安堵したしました。折角記事起こしていらっしゃるので、コメント代わりにTB差し上げますね。
http://blueeyes.air-nifty.com/muimui/2007/09/zega_cg.html
投稿: しののめ | 2007.09.02 19:09