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2009.06.29

大路組「Lady BAT ~陰陽のエトランゼ~」

 大路組特別公演「Lady BAT ~陰陽のエトランゼ~」見て参りました。公演も終わってしまってからですが感想など。2009/6/24-28@六行会ホール。

 《RELAX》第12回公演「絹の龍」で川島芳子をモデルとした「川口芳」役を好演されたおぉじのりこさんが、再び芳子に挑んだ今回の舞台。プロデュースも担当されて、いつもの《RELAX》とは違った趣になりましたが、EMIさんの脚本・演出は今回も冴えてました。

 飛田展男さんと戸部公爾さんはどちらにお出ましかと狙いつつ、初見時はいつも通り下手側、再見時は逆に上手側に。六行会ホールは見易いのでどこでも良いんですけどね。椅子も良いし。←またそれか

●芳子が主役。
 今回はとにかく芳子ですよ芳子。ということで、とにかく主役の芳子に集中した物語はEMIさんの脚本の中でも屈指の分かりやすさだったと思います。個人的に予習のしすぎという下地もあったのかも知れませんが、予習なしの方も分かりやすいというお声でした。
 でもそれは脚本が分かりやすいというだけでなくて、おぉじさんが芳子をきちんと自分のものにして演じられたということが大きく。確かに舞台ではヒールを履かれているとはいえ、それ以上に大きく見える芝居が素晴らしい。「絹の龍」でも堂々とした演技でしたけれど、今回更にその魅力が輝いておいででした。ロビーにあった赤い薔薇のポートレートも素敵でした!

●初見
 先の「絹の龍」が群像劇によるファンタジーだったのに比べると、今回もフィクションとはいえ史実寄り。芳子を取り巻く人物は芳子を映す鏡であり、芳子を照らす光であり、芳子の落とす影でありと、他の人物の描写が全て芳子を立体的に描くのに使われているというのは面白いなぁというのが初見(6/25・木)での感想でした。
 それは単にもう一人の「ヨシコ」である香花(シャンファ)だけではなくて、かつての自分のような芳子を救ってやりたいという甘越や、その芳子を手玉に取る田代さえもそうした配置になっているということで。最も印象的なのが、芳子が飼っていた猿のモン助。愛くるしい動きはどこか哀しくもあり、その様も芳子の一面を映し出しているというのには唸るしかなく。

 終演後に戸部さんに「長かったでしょ」と言われたものの、自分ではそうは思わず。本当にあっという間でした。だれたところもなかったですし。強いて言えば暗転が長いけれどそれは《RELAX》ではお約束だし(^x^; 今回セットがかなり大掛かりだったりしたのもあるのでしょうけれど、場の芝居の密度が濃いので、目を休めるには良い時間になってました。

●千秋楽
 間に2日置いての再見。千秋楽の独特の高揚感があるからなのか、木曜の時点でもよく出来ていた芝居が更にこなれているのが凄い。暗転や薄い闇の中でも芝居は続いていて、音楽の力もあって2回目は暗転の長さも気にならなかったほど。
 2回目の余裕もあったからか、他の人物にもそれぞれの人生があるのがきちんと見えて、群像劇としても成立しているなぁと見直したり。

 甘越が香花に映画の力を説く場面は今回の飛田さんの演技でも印象的な場面で、初見時にもお話をお伺いしたのですが、あの力のこもったお声には、全てが本当でもなく、全てが嘘でもなくという繊細さが込められていて。
 後になって振り返ると、甘越が自身にも言い聞かせているようにも聞こえて面白いなぁと。軍人である彼は命令に従うしかなく、生きることで責任を取らねばならない彼は満映を成功させるしかない。それは決して誰かをだますようなことではない、これは自分の果たすべき任務なのだと。

 嫌な嫌な嫌な奴として描かれる田代は、あの悪役っぷりはあそこまで突き抜けると逆に気持ち良かったりするあたりがさすがは戸部さん。ただそんな田代が「潔く死ぬのではなく負けを認めよう」と言うのは、この場で生きたいと言える彼はやはり人間なのだと。そう思えたのがとても良かったのです。

 初見で惚れこんだモン助役の小村作真さんがメインで演じてらしたボーイの趙が、満映に行ってしまう梅(メイ)と恋仲だというのが、ちゃんと見ていて分かる芝居をされていたのを見直せたのも良かったなぁと。初見だとそこまで神経回せてなくて(^^; 小村さんは基本的に台詞はなくて(一箇所「大丈夫ですか」というのはある)、動きで全部見せているのが、さすが舞踊畑の方だなぁと。終演後にとっ捕まえてサイン戴いてしまいましたよ(^^*

●龍と鳳凰
 甘越が説く龍の国と鳳凰の国の話は理解しやすくて良い。梁とハチの会話での「純粋」であるものとそうでないものという話にも繋がって聞こえるのがまた良い。

 晩香玉の装飾は立体的な龍の玉、東貴楼の装飾は平面的な、しかも首のない鳳凰。この落差がそのまま芳子の転落を象徴しているのも分かりやすさに一役買っている。

 構図が語る物語といえば、冒頭の二つの鉄格子。気高くある姿と、なりふり構わず生に執着する姿。それが一つになって芳子が現れる。物語の時間軸としては終盤に位置する場面を切り取った開幕は印象深い。

●そして蝙蝠
 鳥でも獣でもなく、翼と牙とを併せ持つもの。それが蝙蝠。
 芳子という人物をこの蝙蝠にたとえて話は進む。
 題名にある陰陽とは単に光と影を指す言葉ではなく、男と女を示すものでもある。
 男でも女でもなく、中国人でも日本人でもない。いや、そのどちらでもあるのだと芳子は自分をそう定義付ける。

 芳子に付き従う日本人のハチは、純粋であることは苦痛であるのだと言う。では「お姫様なのに、どうして怒っているの?」──そう香花が口にする芳子は何に苦しんでいるのだろう。
 芳子は自分という存在に対して純粋であろうとして苦しんでいるように見える。どちらかを捨ててしまえば楽になれるのだろうに、そのどちらをも併せ持ったままであろうとして。

 晩香玉の呉琳(ウーリン)の歌う花嫁の歌。相場師の佐藤に白いドレスを贈られるも要らないと言う芳子は、その歌に背を向けるようにして「お兄ちゃん」と慕う加山をじっと見る。だが加山は芳子の想いを受け入れない。そして芳子は佐藤のことを受け入れない。女ではないと言いながらも女の武器を使ってみせようとする、芳子が田代に取り入る真似が出来るのは、芳子がどこかで女ではないからなのかも知れない。

 芳子は自分の理想とする自分自身であろうとするあまりに周りが見えていない。ひたむきな彼女の姿はそれだけを切り取れば高貴ではある、だが地に足の付かない姿はあまりにも危うく見える。
 なのに彼女は美しく見える。それは彼女が純粋であろうとするからだ。舞台の上手と下手で二組の会話が繰り広げられる、その最中で微動だにせずスポットライトを浴びる彼女のポートレートは凛々しくも美しい。光を受ける者としてあろうとする芳子が本当に欲しかったものは何だろうか。


 日本は戦争に敗れ、芳子の前から人々は去っていく。そして満州では軍服姿の甘越の敬礼に見送られて川口喜子が去っていく。敬礼をした手を宙で止めて、甘越は彼女を追うのではなくそこに留まる。そして訪れる闇。

 漢奸とされ処刑されることになる芳子。「お前は僕が好きか?」──物語を通じて芳子が問い続けたのはそのことだった。「好きな人のためにすることが裏切りですか?」──とんでもない。芳子は日本も中国も好きだった。芳子は中国にも日本にも愛されたかったのに、どちらの仲間にもなれなかった。純粋であろうとした芳子は、そんな自分を愛することが出来たのだろうか。

 終幕部は上演台本と実際の演出が異なっていて、台本通りの方が良いかなーと思える部分もあるのだけれど、舞台の上に舞った彼女がこれで良いと思ったのならそれで良いのだと思う。鳥にも獣にもなれなかった芳子は、華になったのだ。そう思いたい。

 EDは主題歌を流しつつ、途中にはダンスも挟んでの余韻が良い感じ。千秋楽には更にPONYのミニライブまであって、生の音とノリノリの歌を堪能。《RELAX》ではやったことのないこの趣向に戸部さんも「初めてだからなぁ」などと。ライブの途中、戸部さんと飛田さんとおぉじさんが並んでエアサイリウムを振ってたのがお茶目だった!
 芳子の物語は悲しいのに、それを取り巻く音や舞は楽しく生きようとした芳子を明るく照らすかのようで、これもまた良かったと思う。

●その他点描
 今回は《RELAX》ではなく大路組なんだけれど、やはり役者のレベルが高いと思う。飛田さんや戸部さんも勿論のこと、岡本嘉子さん(あらリアル・ヨシコ)さんや福岡夕香さんは空気の密度まで変えてしまうような芝居が素晴らしい。
 若手もきっちり引き上げてくれるのが安心して見られて良い。あれだけのベテランが居れば見取り稽古も凄いことになりそうだけれど。

今日も稽古ですが|稽古場日誌

この日の目玉は戸部さんでした
NGの役のところは誰かしらが代役をするのですが
女たらしの役の代役をやってくださった戸部さんの
なんとイキイキした演技(笑)

 これ絶対佐藤さんの代役だよね! とトベスキー同士で話しつつ、でも佐藤はあの若さが良いんだよと。若さゆえに恐いものも知らず、そして足元をすくわれると。

 今回は1枚4pもののパンフがカラー仕様。とはいえ内側の相関図の写真はセピア風味。こちらに載ってる飛田さんの甘越さんが、もう本当にその時代に撮って来ましたといわんばかりのお写真で。史実の甘粕大尉に何だか似ていて驚く。
 お写真だけでなくお芝居自体がそうだったのだけれど、あの時代にあの人生を生きてきた人がそのままそこに居ると思えてしまうのが素晴らしい限り。恒例のロビーの写真もほんと良かった。モスグリーンの私服での飛田さんが恰好良かったんですけど、あの構図はフェイクということで。因みに眼鏡は「絹の龍」のときのもので、イイカンジにくたびれてきたのだとか。

 飛田さんと戸部さんは軍人らしく頭を刈り込んでいらして、「夏は涼しくていい」などと。尤も戸部さんは間に一度刈ったんですよーとか。長髪がトレードマークでしたけど坊主頭も良いですよー(^-^)
 千秋楽は舞台衣装のままロビーに出ていらしたので、戸部さんを「少佐殿ー」とお呼びしたのに、そういえば飛田さんを「大尉殿」とは呼べなかった! ちょっと残念。しかし衣装のままだと役がどこか残っていらっしゃるのか、飛田さんの姿勢がいつも以上にピンとしていらしたような。
 でも間近で見たら、少佐と大尉の階級章が多分逆。加山少尉はちゃんと1本線に星1つだったし。「まぁフィクションだし!」で笑い飛ばしましたけど(^^; そういや敬礼がちゃんと陸軍式で統一されていたのは何気に嬉しかった。

 ならお姫様はどうお呼びしようと、咄嗟に「殿下」とおぉじさんにお声を掛けたら、軍服姿なので「パタリロって言われるんですよ」などと。いやそれはないでしょと思っていたら、「あとガキデカとか」と仰るのに思わず「あぁ」とか声が出ちゃって、「そこで『あぁ』なの!?」などとー(^^; いえそのあのそういうことじゃないんです! と釈明したかったんですが、ローレル様にご指名かかって行ってしまわれました。その節は大変失礼いたしました(_o_)

●更なる余談
 物販のTシャツは龍と鳳凰。「絹の龍」で買い損ねたので今回はげっとしようと色に悩む。おぉじさんが着てらしたマスタードに惹かれるもちょっと合わない? そしたらおぉじさんが「とびちゃんとお揃いのフォレスト(グリーン)は?」と仰ってくださって、こちらを頂戴することに。わーいついに飛田さんとお揃いー(^Q^)
#おぉじさんとは既に莫大小の猫ペンダントがお揃いですよ。

大路組ブランド・レディバTシャツ|稽古場日誌 飛田さんと戸部さんが可愛すぎる。

 飛田さんとお話してて、「ブラックM」と今回と「良い映画を作ろう」って言ってる役が続いたから、次は映画監督の役をやってくださいよと申しましたら笑ってくださいましたが結構本気でリクエストしたいです。是非是非!

 あと飛田さんの声のお仕事で、ケロロとNARUTOにそろそろお出ましとのこと。外画では24のSPとその後の新シリーズにもお出ましということで調べないと。トビタスキーで情報交換してたら「シンケンジャー」#1はオーディションだったとか! 次は是非ウルトラも制覇してくださいっ!
 因みに戸部さんが「シンケンジャー」#4だったのは多分に狙われたのだとか(^^; AR用台本がなくなって現場用の台本だけになり、修正部を耳で聞いてメモったりして大変だったとか。

 ああもうあとこんなこと自分用の備忘録なんだけれど。劇中で印象的に挿入されたベートーベンのピアノソナタ14番「月光」。この曲を覚えたのって「愛の若草物語」でローリーが弾きながら泣いちゃったからなんだよって、トビタスキーの魂百までも。


 で、次の《RELAX》は12/16(水)-20(日)、場所はおなじみ六行会ホールだそうです。楽しみですよ(^Q^)


●予習のしすぎ
 何せ「絹の龍」(2007/1/17-21)→李香蘭:テレビ東京(2007/2/11-12)→テレビ朝日|男装の麗人(2008/12/6)と見てしまったのは予習のしすぎかと。

 けれどやはりこの時代というのは興味深く、二人のヨシコの物語はあまりにもドラマティックで、現実にそういう人が生きていた、或いはまだこの時代を生きていらっしゃるというのに驚くばかり。そんなに身近なはずの過去なのに、知らないことが多すぎる。

 今年の1/24には新聞に載っていた古い写真に目が引かれた。
asahi.com(朝日新聞社):戦況・世相、結ぶ残像 - 写真が語る戦争 歴史と向き合う「朝日新聞創刊130周年記念事業(歴史写真アーカイブ)」のご紹介

元女優「李香蘭」・山口淑子さん
 中央の少女は、当時9歳の川島芳子さん。後に「男装の麗人」「東洋のマタ・ハリ」と呼ばれるとは、予想すらしていなかったろう。清朝の血筋を引きながら日本人として育てられた彼女は中国籍のため処刑され、中国人名で活動していた私は日本国籍が証明されて生き残った。戸籍という紙切れ1枚が、2人のヨシコの運命を分けた。時代の残酷さを感じずにいられない。<粛親王令息らの入京=1917年2月12日、東京駅>

 紙面ではもっと大きめの写真だったと思うが、暗い服を着た大人に囲まれた華やかな柄の服を着た幼い少女という、ある種異様な構図。でもその少女の表情は堂々としているようにも伺えて、王女としての風格が感じられる。

 川島芳子生存説というのもあったなと、探してみたらこんな記事が。
【グローバルインタビュー】男装の麗人、川島芳子は生きていた(上) 野崎晃市・長春大講師 (1/5ページ) - MSN産経ニュース
【グローバルインタビュー】男装の麗人、川島芳子は生きていた(下) 野崎晃市・長春大講師 (1/5ページ) - MSN産経ニュース

 この舞台で芳子は「僕の名も血で書かれるだろう」と言った。もし生存説が本当なら、実際の芳子は芳子ではなくなった人生をどう生きたのだろうか。


 ともあれ皆様、お疲れさまでした。再見!


ブログ村:芝居、お芝居

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