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2017.06.08

大英自然史博物館展はSFだった!

 東京・上野の国立科学博物館(科博)で開催されている大英自然史博物館展。

大英自然史博物館展 (17/3/18-6/11)

 「これってロンドンの自然史博物館だよね?」……チャイナ・ミエヴィル『クラーケン』の舞台の博物館に行きたい、つかUK行きたい、寧ろUKが来い! とか思ってたら博物館の中身が来日してくれましたよありがとうございます!! ということで、前半はまぁ普通ですが、後半は 「大英自然史博物館展はSFだった!」 という感想です。

twilog(ついったでの #大英自然史博物館展 まとめ・写真あり)

●まず『クラーケン』について

 チャイナ・ミエヴィル『クラーケン』とは、ロンドンの自然史博物館のダーウィンセンターから忽然と消えたダイオウイカを追って、魔界都市ロンドンを舞台にキュレーターとイカ教徒とスコットランドヤードの魔女警官とカルト教団の皆さんが入り乱れる終末戦争を描く闇鍋SFです。魔法使いが山ほど出てきますが、ダーウィンの進化論が重要なキーになっているあたり、サイエンスに関するフィクションという点で紛うことなきSFです。

 日本で言うラノベのヘビー級だけど萌え絵はないよというものですが、スタートレックが重要な役割を果たしていたりして、SF好きには色々とくすぐられるものがあります。英国SFなのにドクター・フーはちょろっとしか出てこなくて、スタトレならめっちゃ細かいネタにも注釈入るのに、バッド・ウルフに注釈つかなかったのが残念ではあったのですが。警察ネタでライフ・オン・マーズは出てきても、トーチウッドは出てきません。

 そんな作品の舞台であるロンドンの自然史博物館のあれこれを日本で見られる特別展と聞けば、これはイカずに……もとい、行かずにはおれません。ダイオウイカは来ないけど!


●これは『大英自然史博物館』を紐解く特別展である。

 大英自然史博物館がどのように生まれて、どんな人材を育てて、何を見出そうとしているのか。その歴史の流れに沿った展示のストーリーが明快で、とても面白かったのでした。世界初がごろごろしてる貴重な標本による歴史絵巻であり、標本から生体を復元するCGに彩られる様はSF感もありました。

 個人的に地学・地理学が好きなので、スミスの地質図の実物が見られたのには感涙。デジタルギャラリーで細かく見られたり、本家NHMのグッズも来日してくれて嬉しかったです。ウォレスの生物地理学に関する講演の動画(*)の掲載もありがたいです。

公式動画 | 大英自然史博物館展

(*)ウォレスがその後心霊術や進化への神の介在に言及するようになる話はオミットされてます。詳しくは下記のナショジオの特集など。最後の9ページ目まで読めば、ダーウィンが勝手に共著論文として発表したのをウォレスが受け入れたのも、なるほどと。

ダーウィンになれなかった男 - ナショナルジオグラフィック (2008年12月号)

1889年に自然選択に関する論文をすべて集めて出版したとき、ウォレスは謙虚にも、そのタイトルを『ダーウィニズム(ダーウィン主義)』とした。自分の名前が残ることなど、彼にとってはどうでもよく、大事なのは理論そのものだった。生涯を通じて、功名心とは無縁な男だった。


 日本向けの展示なので、チャレンジャー号などの日本で採集された標本の里帰り展示であったり、日本に関する研究の成果などもあり。こうした展示は巡回せずにロンドンに帰るのだろうなぁとは思っていたのですが、目玉中の目玉と思える始祖鳥の化石も即ロンドンに戻るとのこと。そんな貴重な品々を見られた幸せに感謝。来日してくれて本当にありがとうございました!

 日本の海苔養殖に多大な貢献をしたキャスリーン・ドゥルー(ウェルシュ海岸で食用の海苔を研究していたとか、ウェールズ人は海苔食べますからねー)、『日本日記』のマリー・ストープス、あと化石商のメアリー・アニング、大英自然史博物館で初の女性研究者であるドロシア・ベイトといった、女性研究者が目に付いたのも印象的でした。

 で、スミスの地質図にウェールズが含まれてたり(この時点でアイルランドも併合されてたはずなんだけど調査対象外だったぽい)、ウェールズの海苔とか、スコットの南極探検のテラノバ号はカーディフを出港したのだよな……とか、ウェールズ好きの心をくすぐる展示でもありました。ウェールズ行きたい!!!

 第1会場と第2会場の間に、科博の常設展での関連展示の案内があるのですが、これ以外にもあちこちに関連が見られる展示があります。特別展だけでも2-3時間掛かるのに、常設展となるととても1日では見られないボリュームですが、関連展示を探してざっと見て回るだけでもほんと面白いですよ! 大英自然史博物館から来日しなかったダイオウイカも地球館1階で拝めますし!!

 科博の常設展も進化論に沿った地質年代順を意識した流れでの展示なので、余計に『大英自然史博物館展』が、その博物館の歴史を追う流れになっていたことに改めて気づかせてくれる仕掛けになっています。

 ただ科博日本館のラウンジ奥になんか銅像があるなぁと見てみたら、日本の博物館の父も呼ばれる田中芳男氏の像。2016年の企画展のリーフレットがありました。『東京・国立科学博物館展』も見てみたくなりました。

企画展「没後100年記念 田中芳男 -日本の博物館を築いた男-」


 さても『クラーケン』に魅せられて、実際にロンドンの自然史博物館に行ってみたいものではありますが、こうした流れを追った展示を日本語で見られたからこそ理解が深まったのであって、本当にありがたい特別展でした。素晴らしかったです!

 地球館中2階のレストラン・ムーセイオンでの大英自然史博物館メニューは、フィッシュ&チップスにラムレッグのローストがくせもなくやわらかく美味しかったです。ごちそうさまでした!

 物販で、チャレンジャー号の標本になぞらえた瓶入りのドライピクルスがあったんですが、惜しい。これがビーグル号なら『クラーケン』グッズとして買ったのに(^x^; 中身が国産野菜だからチャレンジャー号なんだけど。

 ともあれ、『インドの仏カレー』『アフガン展みやげの落雁』(黄金のアフガニスタン展)に続くネタグッズ『(始祖鳥の)発掘せんべい』が美味しかったので良かったです(^_^) これに続くのは、7月の東博の『タイ~仏の国の輝き~』展での『ヤマモリコラボのマイペンライカレー』ですねぇ(またカレーか!)。

タイ~仏の国の輝き~ (東京国立博物館 7/4-8/27)

 「美味しく、美しいグリーンカレーを学ぼう」なんて企画まである。
 タイ仏像大使 みうらじゅんさん&いとうせいこうさんトークショー観覧券付チケットは既に完売なので(しくしく)カレー付き前売券買っとこう。


 閑話休題。


●『大英自然史博物館展』はSFである。

 それにしてもSFだったと思えたのは、『大英自然史博物館』の物語そのものでした。

 展示の流れを大まかに書くと;

 大英帝国が世界に進出して世界中の珍しいものを山ほど集めてくる → 分類して名前を付けてみる → 産業革命もあってあちこち掘ってたら現在では見られない動物の骨とか出てきて『絶滅種の化石』というものが見出される → さらにあちこち掘ってたら地層が同じ順で重なってるのが分かってきて地質図が作られる → 化石がどんどん出てきて化石を売る女性まで出てくる → 今生きている動物と絶滅種の地理的・歴史的分布を説明するのに進化論が唱えられてダーウィンが来た!

 このあたりまでで気づいたのが、これはあくまで『大英自然史博物館(Natural History Museum)』展であって、科学博物館(*)展ではないということ。ニュートンやワットといった物理学方面の展示はありません。

(*)ロンドン科学博物館(The Science Museum, London)は、自然史博物館の隣。

ヨーロッパの博物館めぐり13 ロンドン科学博物館


 ということもあり、思想史的な側面は自分の頭で補うしかないのかと。ここから『クラーケン』視点入ります。


 → 科学技術の発展が明らかにしていく世界の有様は創造主が7日間で作った世界とは違うように見えてきた → 神を殺した男であるダーウィンが唱えた進化論は自然史博物館の新たな教義となった

 → 進化論を証明するために化石標本を持ち帰ろうと無理をしたスコットは南極で殉教者となった → 進化論を完璧にしようとして類人猿と人類のミッシングリンクを繋ぐピルトダウン人が捏造された → それは進化論の狂信者の背信行為でしかなく科学の探求で切り開く未来はこれからだ!(自然史博物館の今後にご期待ください!)


 この物語のSF感に気づいたのが、音声ガイドでの「スコットが化石標本を持ち帰ろうとしたのは進化論を証明するためだった」という解説を聞いたときのこと。
 スコット隊が遭難した理由の一つが、この、無理をして化石標本を持ち帰ろうとしたからだということなんですが(アムンゼン隊は南極点到達だけが目的だったのにスコット隊の科学調査は負荷になっていた)、それはあの進化論を証明するためだったのか! という。そんなに進化論は大事だったのか、出港したカーディフにスコットたちが生きて帰れなかったのは進化論のためだったのかと。進化論って何なんだよ……泣くわ。と思ったときに、この展示の流れでの進化論の大きさというか重さに気づいたのでした。

 分類学も化石の研究も生物地理学も、全ては進化論に辿りつく。そして自然史博物館が生み出した進化論は更なる研究が進められるも証拠の不備(ミッシングリンクなど)が埋まらないまま、ピルトダウン人の捏造を生んでしまう。

 すごいね! ピルトダウン人ってサイエンスが生んだフィクションなんだね!!
 ピルトダウン人が、自然史博物館の未来を問う最終章に出てくる意味ってそういうことなんだね!!!
 うわー、SFが目の前にあらわれた! 現実がSFを飛び越えてきた!!

 進化論は科学として確からしいものではあるけれど、未だ完璧な真実だと言えるものでもない。けれど神を殺したからには、完成させなければならない。
 そういう、自然史博物館における進化論の重さをずんどこと感じてから『クラーケン』を改めて読み直すと(科博行く前にも読み直してたんですが)、なんかもうあのラストバトルがずどーんと響いてくるんですよ。

 ロンドンの自然史博物館において進化論とは新たに得た教義である。神を殺した男ダーウィンの名を冠したガラスの聖堂で、アルキテウティスの標本を水槽に納めた男はそれだけで『瓶の預言者』の資格に足るのに、彼の力の源は 偽りの出自による壮大な勘違い によるものであった。

 ……なんてさ、皮肉にもほどがあるわチャイナ・ミエヴィル! サイコー!!

 ミエヴィルがピルトダウン人について書いたわけではないのだけれど、そういうものがあるのがあの自然史博物館だよ、ということは頭にあったはずだろうし。海外文学を読むにはその土地の歴史や風土について分かっていないと、ちゃんと理解できないんだなぁと改めて痛感しました。だからこそ、分かった時の面白さは格別なんですが。トーチウッドMDでもそうだったんだけど……ってこれもUK/US合作でした。

 あのラストバトル、最初に読んだときから作品内での意味は分かっていたつもりでも、大英自然史博物館展を見て進化論の重さを知ってからだと響き方が違う。産業革命を果たし、科学技術を発展させて神を殺した国に息づく、古からの魔法の空気があればこそ成立したSFなんだこれ。

 とかぐるぐる思いを巡らせて下書きしてたら。

 ほんまこれな!!!!
 UKってもう存在自体がSFなんだ……。

 そして7月から科博で『深海2017』という、まさに『クラーケン』刊行時にブームを巻き起こしたダイオウイカが目玉だった『深海』展がパワーアップして帰ってくるというではありませんか!!! ひゃっほう! 前回は発光生物の映像などがとても魅惑的でした。こちらも楽しみですー(^-^)/


特別展「深海2017 ~最深研究でせまる“生命”と“地球”~」 (国立科学博物館 17/7/11-10/1)

 そういえば、大英自然史博物館展の音声ガイドのクイズ、イカ教徒なら正解できる問題がありましたーということでやっぱダイオウイカ最高! などと言って『クラーケン』に戻るのでした。UKは最近テロが続いたりして痛ましく悲しい限りなのですが、皆で平和に博物館を楽しめますように。

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