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2018.11.01

ゼーガペインADPと劇場版ZGII『恋人たち』と

 ゼーガペインADPで見事に大怪我ですありがとうございます!!!
 ……という衝撃から早2年。未だに寝言でADPの感想を書けてないくらいダメージは大きなものでした。

 遅ればせながらの2周年記念ということで、2016年冬コミ(C91)発行の『QL21 : 夏を纏う』に掲載した、ADPについて初めてまとまった形で言及した文章を今頃ですがちょい改稿してupします。


『ADPと書いて『キスの記憶…』と読む。
 として、何故か新訳Ζを持ち出して考えてみる。』

 ADPとZGII『恋人たち』はどちらも「どちらも恋に戦闘にやたらと忙しいけど余白が面白い少女マンガ」だなぁと思うのです。

●ゼーガペインADPとZGII『恋人たち』

 ADPへの反応を見ている中で、「キョウが女を取っ替え引っ替えしてる」と言われるのが目に付きました。

 なにせADPは、本来なら1クール13本のTVシリーズに相当するボリュームのあるお話を2時間にまとめた『総集編』と見ることも可能なので、尺の都合でそう見えるだけで、ADPでは描かれていない空白が山ほどあるんですよ? という言葉を連ねようとして、なんだろうこのデジャビュ……とか思ったら、あーそうだこれ、『恋人たち』だ。と10年前の記憶が甦るのでした。

 劇場版 機動戦士ΖガンダムII『恋人たち』。
 そう、それは『キスの記憶…』。

 ADPの話を聞いたときから劇場版Ζガンダム(以後:新訳Ζ)の記憶はちらついていて、それはTVシリーズの映像に新作画を追加して再構成するという作り方のことでもあり、出来上がったものに対する賛否両論についてもきっとADPは新訳Ζの繰り返しになるのだろうという予想とその実現でもあったのですが、そーか、ADPは『恋人たち』だったのか。と思えば、個人的にはなんだかとっても腑に落ちるのでした。


【ZGII『恋人たち』のざっくり説明】

 1985年のTV版『機動戦士Ζガンダム』から20年後、TV版全50話の映像を元に新作画を加え、全編新規録音で劇場版3部作に再構成したうちの第2部(TV版では15話-32話)。キャッチコピーは『キスの記憶…』。
 第1部の大ヒットを受けての第2部は『恋人たち』のタイトル通り様々なラブロマンスと、主役機Ζガンダムの登場などの新たに描き起こされたメカアクションとが次々に繰り広げられ、完結編となる第3部への引きが素晴らしい。
 「ものの見方をちょっとずらしてみる」試みとして「新訳(A New Translation)」と銘打たれた劇場版の物語はTV版とは違う新解釈のものになり、個々のキャラクターのドラマはTV版とは異なる様相を見せ、中でも主人公カミーユの物語はTV版での悲劇をひっくり返すような結末を迎えることになった。当然ながらそれを意図しての「新訳」ではあったのだが、放映当時から騒然としたTV版での衝撃的なラストを支持するファンからは反発も受けての賛否両論となった。

劇場版 機動戦士ΖガンダムII『恋人たち』(公式サイト)


【ゼーガペインADPのざっくり説明】

 2006年のTV版『ゼーガペイン』から10年後、TV版全26話の映像を元に新作画を加えたADPは、全編新規録音でイベント上映された作品。新録音を行わないまま再構成しADP以前に公開された総集編2本と合わせての 『総集編3部作』 での時系列ではADPが1作目となりTV版の前日譚に相当する。
 TV版では描かれなかった恋模様が散りばめられ、主役機ゼーガペイン・アルティールの初出撃は新規CGで描かれるなど10周年記念作ならではの見所も多い。
 TV版第1話への引きともなっているラストが美しいが、その情景はTV版第1話とは異なっている。TV版で断片的に描かれた『前バージョンのキョウ』と、TV版の映像を再利用して描かれた『ADPでのキョウ』のキャラクターが違って見えるのはおかしいなどの批判もあるが、この捉え方も人それぞれである。

ゼーガペインADP(公式サイト)


 どちらもTV版と変わったところがあれば変わっていないところもあり。10年とか20年も経ってTV版と同じことをしても仕方ないので、違うものが劇場で見られて良かったなぁと個人的には思っています。


●キョウは『女を取っ替え引っ替えしてる』のか

 で、これはまぁそうなんですが、批判するようなことでもないよなぁと。

 ZGII『恋人たち』でも、主人公のカミーユがコロコロ女を変えていくと言われてましたが、TV版とは尺が違うのであっさり次の女に行くように見えてしまうんですよね。TV版では相応の経過時間も悶々もレクリエーションもあるのになぁ。

 ADPでもちゃんと時間経過は意識されていて、キョウがコハクラ先輩のことを忘れてしまうという恐ろしい空白まで描かれています。イェルの悪夢→カミナギとタンデムデートの箇所は敢えて間を置いてないのですけれど、あれは意識的に切り替えてる描写だからあれで良いと思いますし。
 でもこれって『(時間はともかく)女を取っ替え引っ替えしてる』こと自体は否定してませんよね? と言われればそれまでですが、これにもちゃんと意味はあるのです。


●コハクラ先輩の出番には意味がないのか

 これもADPは『キスの記憶…』だったのだと思えば腑に落ちます。

 舞浜サーバーはループする世界でも、キョウが生きている時間はあくまでもシリアル。ループ毎に女を替えてるとかそれなんてエロゲ。という話もありますけれど、キョウの視点では連続した時間が流れていて、経験は基本的には蓄積されていくのです。
 キョウがセレブラントになってしまったおかげで、そして与那覇前浜サーバーのデータを回収する任務が発生したおかげで、前浜に避難していたコハクラ先輩と再会することができてしまった。
 あるいは、キョウはコハクラ先輩と再会するために、彼女を迎えに行く日のためにセレブラントになったのかもしれない。そう思うと見えてくる、余白の淡く切ない物語。

 コハクラ先輩に、ついに逢える。その特別なときめきに浮かれて、背中に少女マンガみたいなきらっきらな光を背負ったキョウちゃんが満面の笑顔で登場してしまっても、それを責めることは出来ません。(←いやあれはコハクラ先輩ビジョン込みなんだろうけれど)
 逢えないはずのひとに逢えた。幻ではない彼女をこの胸に抱いて、その体温に触れて。彼女のために交わした、二人だけの大切な約束。でもそれで、精一杯。
 あと5秒、二人に時間があったなら。一度は胸に抱いた彼女の頬に手を添えて、その唇に触れることができたなら。──いやそれは、あの時のあと5秒ではなくて、きっと次に彼女を迎えに行ったときに果たされる最初の5秒。きっと、次には。
 ……そんな妄想を抱いたとしても無理もない、それはキョウにとって『幻のキスの記憶…』。

 でもそんな『幻のキスの記憶…』も、いつか先輩の名前と共に消えてしまう。何故思い出せなくなるのか、いや、思い出したくなくなってしまうのか。多分それを上書きしたのはシズノとの『キスの記憶…』。


●シズノとのキスに意味はあるのか

 あと10分で死ぬというのに、悲しげに濡れた瞳のイェルは空っぽなまま。ミサキ・シズノという名前をつけてあげてもそれだけでは満たされない。キョウとシズノの二人が今ここに居る、その意味を二人で共有するには、二人で触れ合うしかない。
 という後半部分のロジックはTV版の時点から見ることはできていたんですが、キョウにはシズノの前にコハクラ先輩が居たけれど、コハクラ先輩とはキスはできなかった。という前段が示されると、一連のキョウの物語として、たとえ別の女でも、今回はもういきなりキスするしかないよなーという説得力が増してくれたと思えるのです。

 ……と思い至れたのも多分、先に新訳Ζの『恋人たち』があったからでして。
 『恋人たち』では尺がないものだから、カミーユは南の島の女(フォウ)とはすっきり別れて、幼なじみのファと再会した途端にヘルメットをしたままキスを試みるという急展開になったんですが(これが公開当時『女を取っ替え引っ替えしてる』と批判された)、寧ろこの尺のなさのおかげで、カミーユのフォウとのキスの記憶が、再会したファとまずキスしたいという素直な行動に走らせたのだ。ということが見えやすくなっていたんだよなぁと。
 触れ合うことで互いの存在を確かめたい。自分が誰よりも近くに居るのだと示したい。そう思ってしまったら、着衣越しのハグよりも直に唇を触れ合わせたくもなるのです。

 キョウちゃんにとっては、コハクラ先輩にはキスできなかったなどと後悔するなんて意味のない行為なので、シズノには躊躇うことなくキスできてしまえたということなんですよ。そしてシズノに誠実であろうとすると、先輩の記憶は消えていってしまうんですよ。カミナギが愛しいと思えば、シズノとの記憶は思い出せなくなるんですよ。でも最後にはちゃんと全部思い出せるんです。ほんと男前だねキョウちゃん!

 ともあれ、あれこれすとーんと落ちてくれたのでADPも新訳Ζもありがとう! だったのでした。



 ADPについてはついったでぽろぽろ出していたものの、溢れかえった情報量にどこから手を付けていいのかわからないまま、冬コミでこれを書いてようやくその一端が文章化できました。

 ただその後がC92での『ゼーガペインADP腑に落ちる? すぺしゃる』(60p)と、C94での『すぺしゃるR』(40p)になってしまい、まだADPについては書き足りないと思っている始末です。全治2年を超える大怪我ですよありがとうございます(i_i)


 『ゼーガペイン腑に落ちる? すぺしゃるR』は書店委託、『すぺしゃる』はBOOTHに置いてます。よろしければどうぞです。

書店委託とBOOTHと


 また、QL21表題作のキョウシズ創作はpixivにupしてます。こちらも合わせてどうぞ!

夏を纏う dressing the summer


 本家『キスの記憶…』ことZGIIについてはこちらで。やっぱり好きだなぁ(^-^)

劇場版ZGII 恋人たち@東京ファンタ 見てきました

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